日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1998年12月2日発行 NO.8


 前号で、2002年から改訂されるであろう点字科学記号の暫定改訂案の概要を載せてから、約1ヶ月が経ってしまいました。この改定内容に関するご意見などを収集しようとしていたのですが、思うように集まらなくて、今号の発行を見送っていました。
 そうこうしているうちに、日点委から正式な文書が届いてしまいました。それは今回の暫定改定案に対して、広く意見・感想を求めるものです。来年度5月の総会において正式決定し、教科書編集作業に入る予定ですので、もう一度意見を求められているのです。期限は12月15日です。
 今度こそ、意見があれば事前にしっかりと伝えましょう。数学・理科担当の先生、そして全盲の先生、ご意見をよろしくお願いします。

 前号では、いきなり改定内容に入ってしまいましたので、どのように導入されるのか、暫定修正が必要とされる部分についての問題点などを、もう一度整理してみましょう。

 15.暫定修正案の基本的な考え方
 1.小学校の算数や理科の分野における点字記号については、原則として現行通りとする。例えば、数字・小数点・四則演算子・等号・小カッコ等は変更しない。ただし、複雑な分数式や中カッコ等は、教育上必要な場合は新しい記号を用いてもよい。
 2.中学校や高等学校段階で使用する点字数学記号・点字理科記号のうち、緊急に改善を必要とするものに限って暫定的に改訂する。2002年以後に予定されている新教育課程に基づく点字教科書やその学習参考書及び新教育課程を修了した後の入学試験等を、使用範囲として想定している。なお、数学や理科以外の教科における使用については、関係機関で検討することを想定している。
 3.プログラミング言語等を記述する情報処理用の点字体系については、今回変更を加えない。

 16.暫定的に改訂すべき現状の問題点
 日点委では点字科学記号の抜本的な改定を目指して活動してきましたが、今までの「かわら版」でお伝えしたように、根本的な改訂は現時点で見送られることになりました。とりあえず新教育課程に基づく点字教科書の新版発行に向けて、現行で不都合のある部分の最低限の修正が必要であるという判断から、このような暫定的改定案が出されることとなりました。その経過については、「かわら版」6号の12.でお知らせしたとおりですので、ここではその経過報告には触れずに、なぜこのような部分的改訂が必要なのかを、日点委から出された資料を基にもう一度確認しておきたいと思います。

 1.字体の区別が不完全である。
 物理分野などの活字教科書では、変数・定数には斜体文字を用い、物体名称・位置などを表す記号には正体(立体)文字を用いることで区別している。点訳の際にも、両者を区別する必要があることから、従来より、変数・定数を表すラテン大文字については、日本語文章中であっても外字符を省略して大文字符だけを
前置し、物体名称・位置などのラテン大文字では、外字符と大文字符の両方をつけることで区別してきた。
 しかし、小文字の場合はこの方法では区別できず、活字と対応していない。例えば、「2g」と書いた場合は、「2グラム」なのか、「重力加速の2倍」なのか、字体では区別することはできないという問題がある。
       ⇒だから、「かわら版」7号の14.の2.(1)になる。

 2.数式のはじまりが明確でない。
 現在の体系では一般文章からの数式への切り替えは、式の前二マスあけを基本としてきた。しかし、この方法では記号の後にくる読点の代用としての二マスあけ(数学や理科の文章では文中の記号の後の読点は省略し、二マスあけにすることが多い)、句点の後の二マスあけ、行頭の二マスあけなどとの区別がつきにくい。そこで、数式の最初のラテン文字・ギリシャ文字にのみ外字符をつけることで、ある程度区別を付けてきたが、根号(ルート)のように、ラテン・ギリシャ文字以外の記号には、この方法も使えないため、文意による判断に頼らざるを得ないという問題がある。
       ⇒だから、「かわら版」7号の14.の2.(2)になる。
  (例)
    xの正の平方根をと表す。