日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江

2006年6月12日発行 NO.67

 6月3日4日の土日に「日本点字委員会 第42回総会」が横浜のあゆみ荘で行われました。今回はその時に話題に上ったことを簡単に記しておきたいと思います。

  まずはとっても大事なこと!学校の先生は是非知っておいてもらいたい!
 1.18年度改訂の中学校の数学・理科の点字教科書表記について
 単位カッコの話題です。2001年版の日本点字表記法の改正で、「単位カッコ」が採用されました。これは、一般の日本語文中では使われませんが、専門書等で使用するという規定になっていて、中・高の数学・理科は専門分野と見なされて、1kgでも1cmでもすべて単位カッコの中に入れることになりました。その表記の違いを示しておきます。

 一般文章と小学校の算数分野  1kg   1cm
 専門分野:中・高の数学・理科 1kg 
                1cm 

 なぜこのような単位カッコが作られたかは、高等数学や物理を学ぶ時に、式中のアルファベットや斜体文字と単位との区別、囲みがないために単位の範囲がどこまでかなど、読み取りに苦労することがあり、この単位カッコの登場ですっきりした部分があります。
 しかし、3年前の教科書改訂の時に、これを使う範囲を中学校まで広げたために、専門分野の初期段階の学習である中学生もこれを使わなければならなくなりました。この3年間、実際に使ってみると、中学校段階までは複雑な単位は出てこなくて、一般文章中や小学校までは外字符の前置で慣れていたのに、このマス数を多く使い面倒な単位カッコの使用はとても不評でした。
 実際にどれくらいこのカッコを使用しなければわかりにくい単位があるかと検討した結果、中学校数学では絶対に使わなければならない箇所は一つもないことがわかりました。そこで、今年の改訂の教科書からは、中学部の教科書には原則として単位カッコは使用しないことで、数学・理科の教科書編集委員会で意見がまとまったそうです。表記法には残っている記号ですが、教育的配慮の範疇から中学校では無理して使わないことにしたそうです。でも、教科書には使った方がいいだろうという事例が各学年1カ所はあるので、その時に使って紹介しているとのこと。このような経緯がありますので、授業で内容指導の時には混乱を招かないように解説してあげる必要があり、試験問題作成の時にも留意してください。
 つまりは、「単位の前に外字符を前置する」書き方です! 

 2.『試験問題の点字表記』が今年度中に改訂されます
 2001年以前に作成された『試験問題の点字表記』冊子ですので、表記法の改訂内容に合わせる必要があります。また、大学点字受験などの実績も積み重なってきたことから、現在広く行われている点字受験に際してより活用できるものにすることなどを目指して改訂されます。発行は秋頃になる予定です。
 主な改訂内容は、後半の各種受験案内はカットして、学内試験内容に絞る。
図や表の表記の仕方の解説を充実させる。英語問題の全文を差し替える。点訳例として現行のは一つ一つの問題に解答の仕方を載せているが、解答パターンには様々あり、それを統一したりするのは難しいので、解答の仕方の項目を設けて、そのやり方を解説する。
 この改訂版が出たら、校内の入試問題にも適用できる内容が多く含まれていると思いますので、解説したいと思います。

 3.その他の話題
(1)漢字や仮名で書き表された単位の切れ続きについて
 現在の表記では、「1平方キロメートル」「5センチメートル毎秒」など仮名で長く書かれているものでも、すべてひと続きに書くという決まりになっています。しかし、専門的な単位でどんどん長くなる「100ワット毎平方メートル毎ステラジアン」などのようなものもあったり、「1平均太陽時」「1中国人民元」などのように複合語の切れ続きに合わせたくなるようなものまでひと続きに書くのは読みにくいのでは、との意見がずっとありました。それに対する検討が近畿や東北でなされ発表されましたが、決定的な改善策には至っていません。現行の「漢字や仮名で書き表された単位はひと続きに書き表す」がいきています。

(2)医学用語における2拍以下の自立成分の切れ続きについて
 これも、ずっと以前から話題になっている内容ですが、なかなかすっきりとした解決策が見つかっていません。そもそも山のようにある2拍の漢語を理解するのに、切った方がよいか続けた方がよいかは、その時々の使われる場面やくっつく語によって異なってくるので、一つの表記に決めること自体とても難しいのです。日常一般的に使われる語なら意味の読み取りも早いですが、難解な医学用語を音だけで理解しようとすると、どのように表記したらよいのかと頭を悩ますことがいっぱいです。それを検討したレポートも提出されましたが、継続審議になりました。興味のある人は資料がありますので、道村まで。

(3)漢文の点訳について
 今まで漢文の点訳は書き下し文にすることが一般的でしたが、漢文の本当の内容を理解するにはそのままの漢文表記も時には必要だと、訓点符号など様々な工夫をした表記で漢文独特の構文を書き表そうとする試みがなされてきた。それらの動きを取り入れて、2001年版では、従来の書き下し文による漢文表記の位置づけをより明確にするとともに、必要に応じて訓点符号等を用いることもできるように、訓点符号を整理・統一して解説した。
 これにより、訓点符号が使われ出した学習も出てきたが、それを大学入試などに応用している場面も登場してきているらしい。漢字を認識できない視覚障害者にとっては、書き下し文がよいのか、訓点符号を施した原文文字列がよいのか、議論の分かれるところである。実際、訓点符号表記が採用されて原文文字列で学習して漢文の本来の学習ができる場面もあるが、教育課程上その指導に当てられる時間はほんのわずかであり、訓点符号があるからといって書き下し文を使わない晴眼者と同様の試験問題は非常に不利であることなどが話題になった。
 本校の高等部ではどの程度の漢文の学習をしているのでしょうか?きっと全国でもこのハイレベルな学習ができるのは附属盲学校などごく一部と考えられ、しかも、大学入試を漢文の原文表記で受けようなどという人がいるのでしょうか?国語の専門でない私にとっては、とっても難しい議論で、このくらいの報告しかできません。

(4)資料に見る点字表記の変遷〜慶応から平成まで〜
 現在残されている過去の点字関係の資料を丹念に調べ上げてまとめようとしている報告です。今年度中には1冊の冊子になって発行される予定です。特に、明治の点字が策定された時期の貴重な資料や有名な人も多く登場する資料です。