日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1998年9月25日発行 NO.6

 10.この改訂の動きはどのように知らされたか?
 1997年7月までに,この点字科学専門委員会では前に紹介した2種類の案に絞り込まれました。この二つの案はそれぞれ考え方も異なり,個々の記号も異なっているため,一つの原案としてまとめる前にその情報を公開し,多くの人から意見や要望を聞くことを企画し,「説明資料」の冊子を作成しました。
 そして,「説明資料」を用いた「点字科学記号検討案説明会」を2度にわたって開催しています。第1回目は同年7月12日筑波大学付属盲学校において,第2回目は7月31日全日盲研奈良大会最終日の会場においてでした。また,この会に参加できなかった人や,資料を読んでの意見・要望を収集する手段として,9月6日に戸山サンライズにて「意見・要望を聴く会」を開催したり,8月末日を期限として,郵送やインターネットによる情報収集をしています。いずれも夏休みの期間に集中しており,全国津々浦々に情報が流れたかどうか疑問です。
 本校では,どのような動きがあったかは,当時私はここに勤務していませんでしたので定かではありません。全日盲に参加された先生が情報を持ち帰り,こんな動きがあったことを知らされ,きっと話題騒然だったと思います。しかし,直接この案を検討して意見や要望を出したという話は今のところ聞いていません。しかし,秋の関視研の理科部会や数学部会で情報収集をしようと試みたようですが,話題にのぼらなかったと聞きます。太幡先生は知り合いを通じて関西圏にも情報収集をしましたが,結局のところ,この突然の案は話にならなくて,理科部会でも数学部会でも,無視しようとの方針だったと伺いました。
 本校では,どこまでこの案の検討がなされたのか,あくまで個人的な動きであったのかよくわかりませんが,学校としての情報収集の意識の薄さが感じられ,実際に情報の不足だけは確かだったようです。こんな大きな動きに対して常にアンテナを張り巡らせて,検討し意見を出せる体制づくりが横浜市立盲学校として必要なことであると思います。
 
 11.この改訂の動きにどんな感想を持ったか?
  今年度に入り,校内の職員に聞いてみました。
 <神崎好喜さん>
 ・この点字は,日本で点字を使う人全員が理解したり,使いこなしができなくてもいいんだなと思った。(つまり,難しすぎるということかな)
 ・教育現場で影響が必ず来る。そのことを考えずに実施していいものか・・。
  プロだけに焦点を当てて,一般の人の立場や教育現場での対応などが,検討段階で消えているのではないだろうか。
 <白岩康平さん>
 ・教科書や教育現場では今までの表記を生かして,専門書やコンピュータレベルでは世界に通用するように変えていった方がよい。
 ・科学記号の中にも,1級や2級点字のように段階を付けていった方がよい。
 <清水健男さん>
 ・盲学校や福祉関係全体のコンセンサスをとってから実施すべきである。
 ・日本点字委員会は全日盲とのパイプをきっちりとって進めるべきである。
 <太幡慶冶さん>
 ・変更するのであれば,変更委員会なるものを盲学校関係者で作って検討すべきで,一部で作り上げているのは問題である。
(いずれも,内容そのものよりも改訂の手順についての疑問が出されています。)

 12.日本点字委員会はどういう方向性を出したのか?
 この全国からの意見・要望を聴いた結果,現時点ですぐに,根本的な改定案を一つにまとめて提案することにはまだ困難があると判断しました。また,世界の動きに合わせての改訂を見据えていただけに,その影響を無視できないUBCの決定が遅れていることも明らかになり,この判断があったようです。

 そこで次の理由による「暫定修正案」が提示されました。
 学習指導要領の大幅改定に基づく点字教科書の新版発行が2002年に差し迫っており,現状の矛盾点についての必要な修正だけはしないと混乱が生じてしまうおそれがあります。そこで,根本的な改定への検討は継続して進めながら,同時に,1999年には実作業の準備に入る点字教科書の新版発行に向けて,最低限の修正が必要とされている部分について,暫定修正を行う方向で検討することとしました。
 この暫定修正案の詳細については,1999年5月に開催予定の日本点字委員会総会において提案される予定ですが,記号等については1998年5月に開催された総会において提案がなされ,大筋での承認を得ました
(今年度の総会に提案されたなんて,全然知りませんでした。全日盲に行って初めて知り得た情報でした。点字委員会が発行している会報誌をしっかりチェックする必要を痛感します。しかし,不思議なことに,この10年間本校にはこの会報誌の姿形が全くないのです。これは別な大問題です。)

 13.本校での対応はどうあるべきか
 つまり,暫定的な修正案といえども,目前に改訂が迫ってきたことは明らかです。「2002年なんてまだ先のこと」と悠長に構えてもいられません。来年度以降点字教科書づくりに実際に取り入れられてくるわけですから,具体的な使用例が示されてくるでしょう。今度こそ,この改訂にいち早く対応できる体制を整えておかねばなりません。
 苦い経験として,本校では前回の1990年の日本点字表記法が改訂された折りに,大きく対応が遅れた失敗談を思い出します。大元が改訂になったにもかかわらず,その勉強会を怠り,旧態の「点訳便利帳」を使い続け,やっと「新点訳便利帳」の改訂にこぎ着けたのは5年も後になったからです。(1992年に「点字指導の重点」として校内職員向けに改訂を知らせる活動はしていましたが。)
 いまだに,大元の表記法の改定内容は周知徹底されていないような気がします。
前回の改訂は分かち書き等の曖昧な部分もあったので,「間違えたらごめんなさい!」程度で済んだかもしれませんが,今回は記号そのものが変わってきます。くれぐれも遅れた対応にならないように,心して学習しましょう!

(暫定修正案の具体的な内容は,次号でお知らせします。)