日本点字事情
かわら版
横浜市立盲学校

点字研究部

文責 道村静江
2005年9月22日発行 NO.53

 夏をはさんでずいぶん長いおやすみの「かわら版」になってしまいました。みなさん、
有意義な夏をお過ごしだったでしょうか?今月から毎月「点字研修会」を行事計画の中
に入れてもらえることになりましたので、また、おつきあいください。

     第4回 点字研修会 「複合語の切れ続き その3」

 「2拍・3拍」の考え方は、52号でお話しました。今回は、機械的にはいかない部分を解説します。
 1.「2拍は続ける」と言っても、切る言葉がある!
 @漢字2字で2拍の漢語は切る。  <p19(2)【注意1】>
「母子、都市、事故、自己、歯科、事務、民主、土地、付加、時価、自家、記者・・・」
例を挙げだしたらきりがありません。これらの言葉は、短い言葉でもはっきりと独立した意味を持ち、しかも、漢語であるために仮名だけで表す点字の中で続けてしまうと、意味が分かりにくくなるからです。
 A音読み・訓読みを問わず2拍以下の言葉でも、自立性が強く、切ってあげることでより意味がはっきりするものは区切る。 <p19(2)【注意2】、「発音してみましょう!パート2」>
 同じ漢字でも、使い方により続けたり切ったりと様々です。迷う時には、発音してみることをお薦めします。2拍の言葉にアクセントがあり、強調されている場合には切る。また、二つの漢字語がセットになって一語的によく使われる言葉は続けることが多い。
「要介護、心地良い、昼下がり、馬鹿正直、肺結核・・・」など、これまた例を挙げたらきりがなく、切るか切らないか悩み出したら止まりません。しかし、多くの事例から自分で感覚をつかむしかないようです。

 2.「3拍は切る」と言っても、続ける言葉がある! <p19(1)【注意2】【注意3】>
 【注意2】に「複合動詞や複合形容詞から転成し名詞化したものや、形容詞の語幹を含んでいる複合名詞など」という解説は、難しい!だから、「区切ると意味の理解をそこなうもの」としてこれらの語例を確認しておきましょう。例は少ないです。
 この中で、「魔法使い、合わせ鏡」は切る例と続ける例の2箇所に入っています。つまり、初心者にしたら「魔法」「使い」「合わせ」「鏡」もどれもよく使う独立した言葉であり、3拍だから切った方が読みやすいとなりますし、熟達者のブツブツとあまり切りたくない人は、意味から考えて一語的に使われる言葉で上記のような文法的理由から一語的にとらえるべきだと主張する人の間で非常に悩む言葉になっているのです。
 私たちは、一語的になっている言葉か? 切ると意味がおかしくなってしまうか? の2点に注意して続けるか切るかを判断したらいいと思います。それしか言えません。

 3.外来語は、基本的に言葉のまとまりごとに切る。<p20、21《参考》>
 @合計して5拍のものは続ける。
 A合計して6〜7拍のものは原則として切る。ここでなぜ「原則として」という言葉を入れたかというと、2拍のものをどう処理するかです。2拍の短い言葉を続けたくなる人と全体的に長くなるから切りたいという人に別れるのです。2拍の言葉はくせ者で、前号の例で出した「ロープライス」は、最初に2拍の言葉があるので、「ロー」で切ってあげないと意味の読み取りが難しくなる。逆に「スクールバス」などのように、後ろに2拍の言葉がある時は、読み進めれば意味の理解が容易に判断できるので、続けても何の問題がない、と言えるのです。「スクールバス」は、切る例に入っていますが、続けたくなる言葉です。学校でよく使う言葉なので統一したいですが・・・。
 外来語ではありませんが、この2拍の考え方は、理療科で使う医学用語にたくさん出てきて、未だに議論が多く決着のついていない言葉がたくさんあります。p24参照。
 B8拍以上のものは、文句なしに切ってあげましょう。
 C漢字と外来語がくっついた言葉は要注意です。和語読みか漢語読みか、漢字1字か2字以上かを区別して、書き表してください。場合分けはp21に載っています。

 4.複合動詞・複合形容詞は続ける。           <p22 5.6.>
 特に複合動詞が要注意です。補助動詞(p12)との区別をしっかりしておきましょう。
複合動詞とは、動作を表す言葉が同じ重みを持って並んでいるもの「歩き続ける、泣き叫ぶ、歌い始める」で続ける。補助動詞とは、後の動詞が意味をあまり持たないもの「見てもらう、買ってくる、ご覧ください、遊んでみる」で区切る。

 5.くり返し言葉はいろいろ。           
 @二つ以上の意味のまとまりでできている言葉は切る。   <p22 8.>
 A連濁は続ける、切ると意味を損なうものは続ける。    <p23〔備考〕>
 B擬声語・擬態語は、2拍・3拍のきまりに従う。     <p23〔備考〕>

 このように、2拍・3拍の言葉を見てくると、機械的に拍数だけで判断してはいけないことが分かっていただけたでしょうか。例外は多いですが、それを簡単にまとめると、一語的になっているものは続ける、意味の理解を損ねないために続ける、意味のまとまりをはっきり伝えてあげるために切る、意味のまとまりがあれば切ってあげた方が親切だ、などの方針がつかめたでしょうか。あとは、いろいろな言葉に接して、どうしたら意味を早く理解してもらえるかを考えることで、複合語の切れ続きのきまりが理解でき、感覚も身に付きます。
 大事なことは、晴眼者は漢字を見て意味を即座に判断できるが、点字では全て仮名のためにそれが非常に難しい!ということを、念頭に置いて「優しい・親切な」気持ちで点訳をしてあげなくてはいけないということです。点字のきまりは何でこんなに難しいんだ!と文句も言いたくなりますが、「優しい・親切な」気持ちできまりを読み進めていけば、自ずと理解していけるかもしれません。

  その3 固有名詞
 この項も、「その2 複合語」と考え方は同じです。特に固有名詞は、はっきり伝えてあげなければいけません。だから「さん、君、様」を切ったり、固有名詞と普通名詞を区別して切ったりしています。また、固有名詞が連続する場合も、一つ一つをはっきり伝えてあげなくてはいけないから、ブツブツ切れていても仕方がないのです。その辺の考え方でもう一度、きまりや語例を読み直してください。きっと理解できます。