日本点字事情
かわら版
横浜市立盲学校

点字研究部

文責 道村静江
2005年6月13日発行 NO.52
       第3回 点字研修会 Part2
            「複合語の切れ続き その2」

 3.「くっつき言葉」で、その他に注意すること
 @くっつき言葉が、後ろにあるマスあけを含む複合語にどのようなかかり方をしているかを判断する。  <p17【注意2】>
「大ヒット□商品」の「大」は「ヒット」かかっている。「新□指導□要領」の「新」は「指導要領が新しい」という意味で、「新しい指導」ではない。つまり、どこまでが影響しているかを考える。
 A外来語にもくっつき言葉がある。 <p18【注意3】>
「シップ、リズム、テーション、ミニ、プレ、スーパー」など日本語のくっつき言葉を英語に直したものとほぼ同様の意味合いの言葉。
 B「など」「□等(トウ)」はよく間違えます。区別してください。これも意味のとりやすさからきています。  <p18【注意4】>

 4.連濁は続ける。  <p18 3.>
 これは意外と簡単。意味ある言葉どうしがくっついたときに濁ることです。でも、言葉が長すぎる場合があって、切りたくなることもしばしば。「株式会社」はとても長いですが、我慢して続けましょう。連濁の話をしていたら「じゃあ、昼ご飯は?」と聞かれました。「こ飯」なんて無いですよね。元の言葉を即座に考えましょう。

 5.さあ、2拍・3拍の考え方です。
 拍数は、分かりやすく言えば、言葉を発音するときに手を叩きながらリズムをとることです。すると、撥音(ん)・促音(っ)・長音(ー)なども1拍として数えられるのがわかるでしょう。
 日本語の基本単位として、長い間「音節」という概念が受け入れられてきました。でも、音節だと点字に登場する撥音(ん)・促音(っ)・長音(ー)などはその定義に当てはまらなくなるので、拍(ラテン語のモーラの訳語で、モーラは詩の韻律を示す単位)という考え方が点字の書き表し方にはピッタリだと採用されたのです。
 そこで登場したのが、「2拍・3拍」の考え方です。何故その拍数なのか、ということになると、それは日本語の言葉のリズムによります。
 日本語のリズムは4拍で意味のまとまりを持つことが多く、例えば、略語を作るときも「学割」「英検」「高卒」「パソコン」「マスコミ」「うなどん」など4拍のリズムがとても多い。また、日本語には「七五調」というリズムがありますが、五拍の言葉はスラスラとつながりますが、七拍はその間に休符を入れて発することが多く、これもまた4拍のリズムであるということが言えます。
 さらに、和語(訓読み言葉)・漢語(音読み言葉)・外来語を通して、自立可能な意味の成分は3拍以上である場合が圧倒的に多く、接頭語や接尾語などの副次的成分は2拍である場合が多いのです。
 このようなことから、記憶の単位ともからめると、2+2,2+3などの合わせて5拍以下になるようなものは続けて書き表し、3+3,3+4などの合わせて6,7拍以上になるようなものは区切る方が読みやすいのではないかという考え方が出てきたのです。だから、「2拍・3拍」という考え方を区切りの目安として導入したのです。
 2拍の言葉   <p19 4.(2)>
 松並木 北半球 右半身 腕次第 国同士 水栽培 さじ加減
     ガラス拭き ベニヤ板 宣伝カー 特売デー 夏休み 野良仕事 仮名文字
 3拍の言葉   <p18 4.(1)>
 桜□並木 南□半球 左□半身 隣□近所 一人□娘 女□社長
     枕□カバー 狼□男 花嫁□姿 アイス□クリーム カラー□テレビ

 ここでは、次のような言葉に注意しましょう。
 @同じ単語が使われていても、それに付く単語が2拍と3拍では違うのです。
  桜□並木⇔杉並木  畑□仕事⇔野良仕事  正月□休み⇔夏休み
  高等□教育⇔盲教育
 A続けたいなあ、続けないと変だなあと思われるような言葉でも、3拍以上の言葉に、  それなりの意味があれば、読みやすさを優先して切ってしまいます。
   横浜□市立□盲学校
 以前は「横浜市立」は続けていました。当然、語の成り立ちからも続けるべき言葉のような気がしますが、「市立」という言葉が単独でよく使われることから、7拍の長い言葉を4拍+3拍に分けたのです。
   ホット□ドッグ  バレー□ボール
 切ってしまうと、ホットドッグは「熱い犬」、バレーボールは「踊るバレエ」か「谷」になってしまい、意味がおかしくなるというので、以前は続けていました。しかし、そこまで間違える人はいないだろう。それよりも言葉のリズムや長さから3拍で切るのが妥当となった言葉です。
   インター□ネット ホーム□ページ
 これらは、英単語では続けたスペルで、当然一語として認識される言葉です。これをバラバラにしたら本来の意味ではなくなるから続けたいと主張したくなります。しかし、外来語として日本語の中に定着した言葉であり、長い言葉をどこで切るのかを考えながら読ませるよりも、日常的に使われている言葉の句切りで切ってあげると読みやすく、それをつなげて、外来語の本来の意味を自分で理解する方が早いという判断です。外来語にはこのような例がたくさんあります。日本語と違って慣れていない言葉なので、どこで切るのかの判断が難しく、誤って読み進めるとわけが分からなくなります。
 前に生徒が「インクスタンド」を、日本語の語調で「インクス」と4文字まで読み進め、その後にほんの少しの切れ目を入れて「タンド」と読んだものだから意味が全くとれなくて困ったことがありました。こんな時、何回読み直しても自分の思い込んだ言葉の切れ目というのはなかなか修正できないものなのです。私自身が大恥をかいた例で、「ロープライス」があります。「ロープ ライス」と言葉にほんの少しの区切りを入れたものだから、「ひものような米」となり、みんなに笑われても「ロー プライス」とは気付かずに修正できませんでした。だから、親切に切ってあげることが必要なのだと痛感しました。
 このような勘違いや読み間違いは外来語に限らず日本語の長くなる複合語でもしょっちゅうあります。特に、児童・生徒や、たどたどしく読む初心者が多いです。熟達者にとってはブツブツ切られるのはいやなようですが、点字触読者が減少している現状に合わせて、少しでも初心者が読みやすいようにとの配慮から生まれたきまりです。

 ところが、分かりやすいと思った2拍・3拍のルールは、そう簡単にはいきません。
言葉は生き物ですから、機械的に運用してはいけないのです。それは次号に書きます。