日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1998年9月21日発行 NO.5

 前号でa案とb案を紹介しましたが,まだイメージをつかめないことでしょう。もう少し,具体的に例示してみたいと思います。前号の「9.」に続きます。
 (3)現行の記号と二つの案を具体的に対比してみましょう。

   <簡単な演算記号>
現行 a案 b案
プラス +
マイナス −
かける ×
割る ÷
イコール =
小数点 .
分数線 /
分数カッコ点訳上   

数式小カッコ ( )
数式中カッコ { }

数式大カッコ [  ]
根号 √


<実際例> 上の記号を使って,解読してみましょう。
@ 
      
            現行    

            a案     or 

            b案    

                         は数式パッセージ指示符
A
   
 現行 

 b案 



(4)個人的ですが,この案のいいところも発見しました。
 (1) 今まで分数を書き表す場合,分子・分母が数のみの分数を書くときには問題はありませんでしたが,文字式や数式が入った分数を書き表すときには,点訳上どこまでが分子や分母であるかを書き加える必要がありました。(点字はどんな複雑な分数でもすべて1行に書き表さなくてはならないから,目に見えない部分に点訳のためのかっこを付け加えなくてはいけないのです。) その記号には,リロ下がりかっこ( )を使っていましたが,本式の中にさらに数式の小かっこ()がある場合は,同じ記号である2種類のかっこが混在し,それはそれはややこしいものになります。(新点訳便利帳:57頁【注意】参照)
 それが,この改定案では解消されています。分数全体を囲むかっこを作り,分数の始まりかっこから分数線までを分子,分数線から分数の終わりかっこまでを分母としていることです。このことによって,分数囲みかっこの中に書かれている表記は墨字のものと同じになるのです。

 (2) 根号(ルート:√)についても,@と同じ改良がなされています。現行では√をつけた後はどこまでが根号の中にはいるのかを点訳上のかっこ(リロ下がりかっこ)で付け加えなければいけません。(新点訳便利帳:58頁5.参照)
 それが,この案では根号内部がどこまでかを示す記号を作ってくれました。(b案では根号開き記号と閉じ記号が用意されています。)

 (3) 数式中に使うかっこには,小中大と3種類のかっこがありますが,そのうちの中かっこはレ下がりかっこ( )で表されています。このレ下がりかっこというのが曲者で,開きと閉じの区別がないのがとてもやっかいなのです。日本文中における第1かっこ( ),第1カギ( )にも時々そんなことを思いますが,数式中となると開きと閉じがはっきりしてくれないと本当に困るのです。また,日本文中でよく使う第1かっこと数式の中かっこが同じなのも問題なのです。それをこの案は解消してくれています。

(5)結局,何なんだろう??
 残念なことに,この両案を解読しようと思っても,高度な数学記号などの部分では私の理解の範囲を超えてチンプンカンプンなので,これ以上のコメントのしようがありません。しかも,この案が情報処理の専門書にどう役立つのかさえも皆目見当がつきません。ですから,この両案のどこがよくて,何が悪いのかの意見をはっきり言えないのがとても残念です。
 あえて言えるとしたら,前号の9.(1)と(2)の<個人的感想>,上記の(4)ぐらいなのです。ごめんなさい

 「かわら版」の4号と5号をお読みくださった方の中には,何のことが書かれているのか理解に苦しまれた人も多かったと思います。点字数学記号を熟知していないとわからないことだらけですよね。数学科以外の人は苦しむはずです。仕方ありません。
 でも,点字委員会がなぜこのような案を作ろうとしているのか,大まかに何が変えられようとしているのか,お分かりいただけたでしょうか?分かりづらくとも我慢して何度も読んでください。やがてこの火の粉は盲学校で学び,働く人全員に降りかかってくるのですから。