日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校

点字研究部

文責 道村静江
2005年5月10日発行 NO.47

 3年ぶりに「かわら版」を復活させます。この標題とレイアウトが記憶にある人はかなり少なくなっていることでしょう。ずいぶん職員が入れ替わりましたものね。経緯を知らない方に、これまでのことを簡単に紹介します。
 私が盲学校に戻ってきた1998年に点字数学記号の大きな改訂をしようという動きがありました。それをあまり誰も分からなくて、どんな改訂がされようとしているのかの解説をしたり、学校から意見を出す必要がありました。そんな日本の点字の動きを察知することと情報を正確に理解する必要性から、この「かわら版」の発行を始めました。数学・理科記号は結局小改訂だけにとどまりました。
 すると、難しい解説よりも、校内の職員が自己研修として活用できる資料にした方がよいと方向性を変え、その都度、気を付けてもらいたいこと、間違えやすいポイントなどを解説してきて、皆さんによく活用してもらった記憶があります。特に、10年ぶりに点字表記が改訂され、『日本点字表記法2001年版』が発行された時に、何が変わったのかを詳しく知らせる必要がありました。その特集を点字教科書表記が変わる直前の2001年度末に集中的に9号に渡って載せました。
 この間、1998年度から2001年度までの4年間に46号の「かわら版」を発行しました。もちろん、私が全てを理解していたわけではなく、この発行と共に猛勉強をして私自身の理解度も向上しました。そういう意味では、この発行は私自身のためであったかもしれません。
 時を同じくして、「個人が持てる力をみんなのものに、一つの学校から全国へ」というネットワークや情報発信の気運が出てきて、このかわら版をホームページで公開する動きもしました。すると、全国の盲学校関係者がこのページを見つけ、校内の研修で活用したという話を耳にするようになりました。あくまでも本校の職員向けに気軽に書いてきたもので、かなり個人的な言い回しが多く、少々恥ずかしい思いもしました。
 過去のかわら版を見たい人は、次のアドレスにアクセスしてください。
    http://tenji-sien.net/kawara.htm

 その後3年間、この発行を中断しました。その理由には次のことがあります。
 今まで使われていた「新点訳便利帳」が2001年の点字表記改訂に伴って、内容を書き換えなくてはいけなくなったことで、点字研究部は、その後、新しい便利帳の編集作業に全精力を傾けました。幸い、かわら版の後半に特集した改定内容の学習があったことで大いに助かりました。そして、『点訳便利帳2003年版』を2003年5月に発行することができました。新しい便利帳に全てを書き込んだ思いがあったので、その後は何かを解説するという作業はなくなり、とにかく便利帳を活用してもらえればよいという思いで、かわら版は小休止させてもらいました。便利帳も発行から2年間で4,000部が全国に出回り、活用されています。
 もう一つの大きな理由は、点字表記の改訂がされて以後、表記に関する大きな問題が出なくて、日本点字委員会の総会に出席しても目新しい情報を入手できなくなったこと。そして、私自身が2002年度から日本点字委員会の委員になったことで、それまで外野席から気軽に思うことを書いてきた活動に変化が出てきました。点字に関して個人的な見解でものを言うのがはばかられたのです。というよりも、点字表記を熟知している偉い先生方に比べて、自分の力のなさを痛感したことが原因かもしれません。ましてやホームページで公開することの重さも感じて、その後の発行に足踏みをしてしまいました。 そのような過去の活動になりつつあった「かわら版」の発行をまた始めてみようという気になったのは、ここ数年の職員の異動の激しさで、点字に熟達した職員が非常に少なくなってきたことです。危機感さえ感じています。その理由を一概に職員の自己研修力の不足と言ってしまうわけにもいきません。いくつかの要因が複雑に絡み合っているからです。
 点字を使用する児童生徒が減少し、日常的に点字を使って指導する場面が少なくなってきたこと。PCの普及で、Win-BESなどの点訳ソフトしか使わなくなってきて、生で点字を書く場面がほとんどなくなってきたこと。これには、大きな問題意識を持っています。便利な点訳ソフトの活用を否定するわけではありませんが、6点入力が苦手だ、6点入力ができないキーボードだという理由で、「ローマ字入力」をしていること。しかも、入力を確認する画面は「ひらがな画面」。これでは、パーキンスを使ってその場で教材を作れるわけがありません。しかも、打ち出された点字を生で読めない職員があまりにも多くいること。このことは、児童生徒の学習場面で直接指導できないということを暴露していることなのです。ですから、是非6点入力ができるようになってほしいし、点字を読めるようになってほしいです!(PCを購入する時は6点入力できる機種を!それが無理なら、キーボードの差し替えでも可能です。)
 また、職員の研修体制も不十分でした。転任してこられた先生対象に新学期に新転任オリエンテーションを4回実施していましたが、たった4回で分かるはずがありません。ましてや、盲学校の全てのことが初めてという人には、かいつまんだ解説だけではパニックになり、「点字は難しい」という印象を与えてしまっただけかもしれません。その後、「点訳便利帳」を活用して自己研修を積んでもらえればという思いで、フォローはしていませんでした。しかし、それがダメだったのですね。点字使用の児童生徒を担当していなければ、点字の必要性を感じないし、使わなくなるのは当然。たとえ、そのような授業を持っていても忙しい中でPCなどの便利な道具を駆使すれば、それなりに教材作成はできるという安心感も手伝って継続的な自己研修が進められなかったことが原因でしょう。たまに会議資料を点訳しなければならない場面に出くわすと、自動点訳ソフトを利用している人も多いようです。しかし、自動点訳ソフトも完璧ではなく、それを校正できる力が必要とされるわけですが、そのまま出力してしまう人も多いようです。これは力のなさを暴露しているようなものですから、心してくださいね。
 数年経ってみて、周りを見渡してみると、「点字が苦手」という職員があまりにも多いことに大きな問題意識を持ちました。そして、このままではいけないことは分かってはいるんだけど、どう勉強していいのか、どう技能を上げていけばいいのか分からないという人が多いことも分かりました。

 そこで、この『かわら版』を復活させると共に、月1回「点字研修会」を開催して、新しい人だけでなく数年経った人も、古い人も、もう一度「点字のきまり」を勉強してみようという人のためにサポートすることに決めました。多くの先生方の参加を期待しています。そこでは「点訳便利帳」を使っての解説を行います。そして、頭だけの理解ではなく、手が動き、目で読める技能も身につけてほしいと思います。

 点字研究部が保護者の要望を受け、「点字勉強会」を始めて4年目に入ります。今年も多くの保護者が点字を使いこなせるようになりたいと参加しています。先生たちも負けてはいられません。一番恐いのは、支援してあげるべき児童・生徒・保護者から、あの先生は点字ができないと見放されることです。盲学校の先生は点字ができると世の中の人から見られています。それに応えられるだけの技能を是非身につけてください。お願いします。

 「かわら版」復活第1号は、前置きだけにするつもりが、ずいぶん手厳しい内容になってしまいました。お詫びすると共に、先生方の発憤を期待します。
 私もそんなに長くは盲学校にいられなくなりました。嫌われることを覚悟で、できることを精一杯やりたいと思います。