日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1998年9月21日発行 NO.4

 夏も終わりました。全日盲研・点字部会にも参加してきました。ようやく問題点の全貌と方向性が見えてきました。長かった前置きは終わりにして,早速本題に入ることにしましょう。

 8.点字科学記号検討案(a案・b案)が生まれた経緯
 (1)日点委・点字科学記号専門委員会設置の理由
 日点委には,数学記号専門委員会と理科記号専門委員会が設けられていたことは前号まででお知らせしたとおりです。ところが,近年の科学技術の発展に伴う科学技術の専門的内容を点字で表記するには,それなりの対応が必要でした。
 1981年に「コンピュータ用言語の6点式点字表記」を決定したりして,プログラマの業務や情報処理技術者試験などに対応してきました。ところが,情報処理関係のマニュアルなどの作成にあたって数式とプログラム言語との使い分けに多くの問題点が浮上してきました。それまでは「相互変換用点字専門委員会」を設けてその中で検討がされていましたが,もはや情報処理のためだけの独立した点字記号体系では対応できなくなっているのです。
 そこで,1991年に数学・理科・情報処理分野を統合させた「点字科学記号専門委員会」を発足させました。この委員会に付託された事項は,点字数学記号・点字理科記号・情報処理用記号の統一を図ることと,点字と墨字の相互変換に耐える記号体系を踏まえた点字科学記号の原案を作成することでした。

 (2)世界の動きも無視できません。
 1991年以来,世界的に点字記号の大改革が進められています。英語圏では一般文書を拡張し専門的表記を可能にするとともに,点字と墨字と相互変換を可能にするため,「統一英語点字記号」UBC(Unified English Braille Code)が開発されています。日本でもその目的は同じだったので,調査の結果,日本の仮名の点字記号とこのUBCの点字記号が統合できることを発見し,「相互変換用統一日本点字記号」UJBCとしてすでに開発されています。ただ,これは一部の情報処理関係の専門家が使う範囲にとどまっていて,一般的数学記号と頭を切り換えて使わなくてはいけないようです。(UJBCは日本点字委員会にはまだ承認されていません。)
 日本の点字科学記号体系を根本的に変えて出来上がったものは,このご時世,当然世界の記号体系にも対応していなければなりません。その最も拠り所とすべきUBCがまだはっきり決定していないことも,日本での動きを鈍らせている原因となっているようです。

 9.さて,a案・b案とはどんなものでしょう?
 これを読みこなすのは,非常に難しい。ほんのさわりの紹介だけでいいですか?
 (1)まず,b案とは?
 1.UBCを完全に採用しています。ですから,数学・理科分野だけでなく,あの難しい記号満載の情報処理分野でさえも,必要なすべての墨字記号に対して点字記号が用意されている。
 2.一般文書表記とこの案の点字科学記号とはモード切替記号を使って明確に書き分けられるため,同じ文書中に自然に混在できる。
 3.墨字と同様に,日本文と英文とで数式等を同じ点字記号で表記できる。
 4.つまり小学生から専門家までこの記号体系一つで共通に使うことができる。
 5.当然,多くの種類を用意しているために,3マス以下を記号の単位としている。(つまり,多くのマス数を使うことになる。)
 6.点字記号と墨字記号が1対1対応しているために,相互自動変換が可能となる。
<個人的感想>
 これから進む国際化に完全に合わせようとしているので,UBCを全面的に採用している。この体系が出来上がってしまえば,世界に通用するものとなり,コンピュータ社会にも十分に対応していけるという点では,魅力的である。
 しかし,点字導入の段階からかなりマス数を使う複雑な数式記述となったり,記号モードでの頭の切り替えが必要となりそうで,果たして,点字を使うすべての人がこれだけの記号が必要で,使いこなせるかという点で疑問が残る。
 習う方はこんなものかと受け入れてくれれば問題はないが,指導者側の頭の切り替えと猛烈な勉強が必要となろう。また,理数関係者以外は容易に使いこなせず,点字離れがさらに進みはしないかと気にかかる。
(あまりにも低レベルでの感想ですが・・・)

 (2)では,a案とは?(b案に比べて)
 1.b案までは複雑ではなく,現行のものとUBCに沿ったb案との中間をとっている気がする。
 2.情報処理関係の専門的な対応をするときには,この案に沿った情報交換用システムを用いることによって一段階上のレベルにするわけで,一般の者はそこまでの専門的点字記号を知らなくてよいことになる。
 3.しかし,情報処理に対応するために,その前段階として最低限の記号の書き換えが必要となり,それはb案とよく似ているが,マス数は少ない。
 4.リーダビリティ(読み易さ)を重視しているため,それぼど複雑な記号にはなっていない。
<個人的感想>
 b案よりは若干簡単になっているとはいえ,この記号体系に切り替えるエネルギーも相当なものである。そうして切り替えた記号が,世界に通用しないとなるのも残念であるし,専門分野にはさらなる改良が必要というのもなんだか中途半端な気がする。結局また第二次改訂がなされそうで,現場が混乱するのではとの危惧を持つ。