日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
2001年6月20日発行 NO.37

 眞田さんから届いたグラフィックデータを頁の右側におき、左側には漢字学習で必要と思われるいろいろな解説を加えたいと思いました。

  点図による漢字学習資料の完成!
 
  1.コンピュータ漢字読み上げソフトの詳細読みの記載
 今後コンピュータを活用する際に、漢字選択でとても苦労するのは目に見えています。そこで、現段階で一般的に使われている2種類の詳細読みを記載することで、コンピュータ活用を容易にできるようにしたいと思いました。
 1行目にVDM-100Wの読みを、2行目に98リーダーの読みを書きました。VDM-100Wの読みは比較的初心者用で熟語解説なども付いています。98リーダーは訓と音の羅列で熟達者用だと思います。同じものもありますが、あえて2行に渡って書きました。(漢字を一つずつコンピュータに入力して、どう読み上げているのかを聞き取る作業をしてのデータ集めでした。)
  2.訓と音での読み方とその語例の記載
 訓読みは「第1カギ」でくくり、送りがなもわかるようにしました。音読みは(第1カッコ)でくくり、特別な読み方は第2カッコでくくり、<特>としました。それぞれの読み方のあとに小学校段階や日常生活でよく使われる言葉を、スペースの許す限り載せました。
 また、墨字の国語の教科書では該当学年で取り上げる読み方しか載せていなくて、異学年で同じ漢字の違う読み方を何度でも取り上げています。しかし、この資料では各学年の新出漢字だけを取り上げ、その読み方には小学校で習う全ての読み方を記載しました。(国語科じゃないことをまたしても後悔しました。)
 ですから、該当学年の児童にこの資料を与えた場合、多少難しい読み方や語例が出てくるかもしれませんが、この資料は、該当学年の児童だけのものではなく、学年枠にとらわれない広範囲の点字使用者を対象にしたかったのです。
  3.漢字の配列は点字教科書原本の「光村図書」の配列に合わせた
 各学年五十音順にという考え方もありますが、学校教育の国語指導の中で漢字教育を扱っていくことを考えれば、単元に合わせた配列が指導しやすいのではと考えました。2002年度に教科書が改訂されるとその配列も変わってしまいますが、その時にまた考えたいと思います。

  実際に低学年の児童に指導してみて

 去年12月からの小学1年と小学2年の児童2名に指導したときの様子です。
  @漢字導入の前にカタカナの導入を時間をかけて行いました
 先天盲児はペンを持つ指導からしなくてはいけません。横線・縦線・斜め線・カーブなどを指先の動きをコントロールしながら書く技能を身に付けさせました。カタカナは直線構成になっていることや漢字の各部分に使われている場合が多いので,カタカナの導入は必要不可欠でした。
  A書き順にこだわる必要はない
 だいたい漢字の左上から右下に書いていくことがわかっていれば,あとは全盲者特有の確認しやすい書き順があります。線が閉じるところや突き出さないところなどは,明らかに墨字の書き順と違った方法の方が正確に書ける場合が多いです。土は横二本を書いてから縦線を書くなどと自ら工夫していました。
  B漢字を書けるようにすることが目的ではない
 低学年の基本的な字は書けた方がよいし,字体をイメージできた方がいいとは思いますが,最終的には音訓の読み方をマスターし,どのような言葉にその漢字が使われているのかの語彙力を豊富にし、同音異義語の漢字を意味などからうまく当てはめることができるようにすることが大切です。また,その字体を構成の要素で説明できるようにしておくと,次々と難しい漢字が出てきた時にも学習した字との関連性から理解が速くなることを実感しました。
  C漢字を知っている、書けるということが実にうれしい
 一般小学生や弱視の友達と同じようにペンを持って文字を書き、漢字を学習していることの喜びを顕わにし、漢字学習への取り組みが非常に意欲的です。
  D漢字の字形と意味との関係の理解が深まった
 今まで言葉だけの説明文で理解していたのとは違い,字形を確認することによって漢字の成り立ちのイメージや漢字の構成などにも興味を持ち,理解が深まりました。現在画数の多い2年生の漢字を学習していますが,それらのほとんどがすでに習った字の組み合わせから構成を素早く理解し説明できますし、漢字同士の関連性から意味の理解も深まっています。このことから1学年の字体から系統的に導入していく方がよいと思いました。。
  E音読みの組み合わせで言葉がわかった
 今まで音でしかとらえていなかった言葉を漢字の組み合わせでとらえ,その漢語の意味をよりはっきりと理解できるようになりました。語例以外の言葉でもその意味から使われている漢字を予測できる感覚が養われつつあり,コンピュータ活用時の漢字選択にもつながる学習だと思います。
  F書きの学習は楽しい
 書きの練習を進んでやり,始点や交点の場所・線の長さなどを見本を見ながら練習し,3cm角のマス目にバランスよく読める字で書けるようになり,全盲児が書いたとは思えないほどでした。
  G自学自習ができる
 最初の30字ぐらいをていねいに指導したら,あとは字体を読みとる触察技能を身に付け書くコツをつかみ,自学自習でどんどん進められるようになりました。
  Hカードにして楽しく学習
 漢字だけを切り取り,カードにしてゲーム感覚で楽しく学習しています。
  I点図の触察能力の向上
 漢字学習以外の効果として,点図を注意深く触察し,線の形や位置の把握,部分から全体構成へとイメージをつかむ訓練が絶えず行われている学習内容であるので,全盲児にとって苦手分野である点図の触察能力の向上に役立っているという意外な効果もありました。

 現在、1年生80字、2年生160字が出来上がりました。
 最初は、本校の児童のためだけの教材作りでした。でも、出来上がったデータはどこの学校でも一般の視覚障害者もほしい資料なのではないかと思いました。そこで、松田さんの大変な協力を得てホームページに載せて公開しました。かなりの反響のようです。せっかくのデータが手元にあるわけですから、本校の小学部以外の皆さんも是非活用してください。