日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
2001年6月18日発行 NO.36

 お久しぶりです。今年度に入って初めてのかわら版になります。この間、いろいろ書きたいことはあったのですが、まずは、今私が取り組んでいる仕事が一段落してからと休止状態にしていました。
 今取り組んでいることは、「点図による漢字学習資料」の作成です。今回は、これを紹介したいと思います。

 点図による漢字学習資料作成の経緯

 「IT教育」と叫ばれ、本校でも情報機器関係の設備が急激に充実してきました。これほどの学校は全国的に見ても数少ないのではないかと思います。その中での教職員の活用状況や児童生徒への普及は目を見張るほどの進歩です。数年前のキャノワードが幅を利かせていた頃とは大違いの職員室で、最近は専攻科のエリアに入ると電子音声があちらこちらから聞こえてきて、みんな静まりかえって耳を傾けている姿には驚いてしまいます。それだけ視覚障害者にとって機器をフル活用して音声による情報収集が可能になったことは喜ばしいことです。また、他社会の人とも点字墨字の壁を越えてメール交換ができるようになったことは画期的なことで、社会参加、情報発信、しいては社会自立に結びつく大変有効な手段であることは、誰もが認識していることです。
 これからの時代、視覚障害者も点字だけの世界に甘んじているのではなく、墨字文化の社会にも堂々と参加していかなければいけないことを痛感します。

 そこで思いました。そのためには「漢字」という壁を何とかして乗り越えなくてはいけない。メールを打ちたくても、資料を作りたくても、その漢字でどれほど苦労しているか・・・・。10年程前、AOK(点字ワープロ)が出たときに、使いたくても漢字を知らなくて苦労している生徒たちを目の当たりにして、何とか漢字選択が正確にできる知識を身に付けさせたいと、点字だけによる音訓読みとその語例の資料を6年生分作りました。点字186頁にもなる膨大な資料でした。その時は図形ソフトもなく、それだけの資料を作るのが限界でした。中高生になってからの大量の漢字の音訓読みや語例をひたすら覚える学習で、漢字がどんな形をしているのかはあきらめた学習でした。この子たちが小学生の時から段階的に学習していればこんなに苦労しなくて済んだのにとつくづく思ったものです。

 そして、小学部所属になり、点字をクリアーした子供を担当して、今こそ漢字を導入すべきだと思いました。その導入には、漢字体が必要不可欠だとも思いました。漢字の字体にも大きな意味がある。その部首や旁の構成は漢字同士を関連させ、読み方も関連しているからで、同音異義語の選択にはその漢字が持つ意味を理解することが絶対に必要だからです。
 だから何とかして漢字の字体を子供たちに提供したかった。うまく書けなくてもいい、形がイメージできるだけで、構成がわかるだけでもいいと思いました。
何の方法も思い浮かばないから、立体コピーで字体を毛筆で書き、その横に墨点字で解説を書きました。それを提示して学習を少し進めましたが、立体コピーでは手書きだから間違いも多い。間違えると原本から書き直さなくてはいけないし、言葉を挿入するとなると全て書き直しとなります。しかも、立体コピーは長期保存がきかない(くっついてしまう)、ペンで書いた点の浮き出しに不揃いがあるなどの難点がいくつもありました。
 漢字学習の必要性は痛感しているものの、その教材作りに何かいい方法はないものかと模索していました。
 そんな時に出会ったのが、「点図くん」ソフトでした。「エーデル」も使ってみましたが、マウスを使って一から字体を作るなどという途方もない作業は手が出ませんでした。「点図くん」はWindows版なので、スキャナーで字体が読み込める、フォントが読み込める。既成のフォントを使ってなら字体を作れるかもしれないと思いやってみましたが、ポイント数の大きな字体は太すぎて使えませんでした。
 がっかりしていたところに、「点図くん」発売元のリコーの成田さんから千葉在住の点図ボランティア眞田さんを紹介してもらいました。眞田さんは点図だけでなく、医学漢字や千葉盲の依頼で小学低学年の教育漢字を作っていて、リコーの「点図図書館」のホームページで多くの資料を公開していました。
 眞田さんの手法は、一太郎でフォントを読み込み、ペイントからビットマップに落とし、点図くんで線画を描くというもので、大変根気のいる作業です。
 その眞田さんの持つ漢字資料は、私のイメージしているものとは違い、一つの漢字に1種類ずつの音訓読みだけが記載されているもので、字体は曲線構成の教科書体でした。
 そこで、盲児が触察しやすい字体を私なりに考えて直線構成のゴシック体を基本にすることや、漢字を学習するのなら6点漢字や漢点字(8点漢字)も合わせて作りたい、さらにはあまり普及していない「点図くん」ソフトでしか使えないものではなくて、みんなが使っていて自由に解説入力ができるWin-BESに変換して使いたいと申し入れました。
 そこから眞田さんの猛烈な熱意ある作業が始まりました。試作品を作り私が点検して直すという作業が何度となく繰り返されました。

 その作業の中で一番苦労したのは、漢点字類の入力でした。8点入力の機能は点図くんにもWin-BESにもないので、グラフィックとして表すしかありません。ところがグラフィックで表した点を点字として読ませるにはかなりの精度が要求され、データ上では正確な点を書き表しても、点字プリンターの出力の際にずれたり重なったりしてどうしてもうまくいきません。NewESA721プリンターはグラフィックが打てると銘打っていますが、その精度はかなりお粗末です。うまくいく場合もありましたが、どうしてもずれたり重なったりと読むに耐えないものも多数出てきて、かなりの点字用紙を無駄にしました。あまりにももったいないので1点打ちで手直し作業も夜なべでやりました。プリンターを酷使していると紙送りがますますおかしくなったこともあります。でも、眞田さんに作っていただいたデータは完璧です。問題はプリンターなのです。
 プリンターに関しては今も悪戦苦闘が続いていますが、校内中のプリンターを使いまわし、今は何とか落ち着いた状態になっていますが、いつ限界がくるかわかりません。まるで腫れ物に触るような気分です。(みなさんが使う点字データ出力に関しては、何の問題もありませんのでご安心ください。)
 また、この問題は漢点字類だけの箇所ですので、漢字体を活用する分においては何の問題もありません。私が6点漢字・漢点字を載せることにこだわっているだけなのですから。
 6点漢字や漢点字(8点漢字)については、いずれこのかわら版で特集したいと思っていますが、簡単に言えば、6点漢字は音訓構成からなる文字、漢点字は部首などの構成からなる文字です。ですから、漢字学習の際に字体を学習したら自ずと漢点字の理解が進むし、音訓を学習したら6点漢字が理解できるのです。この漢点字類は、現在のところ学校教育では扱っていませんが、能力があり意欲のある人にとっては、漢字学習を進める際に十分理解できる文字であることは確かだと思います。でも、指導者側がこれらの漢点字類の知識がなかったり、一つ一つの漢字に当てはまる漢点字類の資料を持ち合わせていないと思います。ですから、情報提供だけはしておきたいと思いました。使うかどうかはこの資料の利用者の判断に委ね、私にはどちらかを優先するという思いはありません。ですから、6点漢字は6点入力で可能でしたが、あえて8点のグラフィックで表した漢点字と同じ扱いにしたかったのです。
 こんな思いから始めた漢点字類のグラフィック化でしたが、思わぬ苦労が今までも、これからもつきまといそうです。
 眞田さんからは次々とデータが送られてきています。ありがたいことです。
今度は私が説明を点字で加えて資料を完成させ、指導場面で活用する番です。