日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
2001年3月7日発行 NO.35

    点字技能検定試験」特集 Part5

     最後の難関、校正問題
 試験の残り時間は1時間ほどだったでしょうか、校正問題はどのようなものだったでしょうか、とにかく焦っていたのでほとんどが真っ白状態で、記憶にかすかに残っているのみです。それを必死にたどってみます。

   「校正技能試験」の傾向をほんの少しだけ
 1頁にどれくらいの間違いがあるのかわからないので、とにかく終わりまでチェックを入れながら読むことにしました。各頁に必ず3,4カ所ぐらいの間違いはありましたが、頁によってはやけに少なかったり多かったりで、見落としじゃないか、これで正しいのじゃないかと迷う場面も度々ありました。最後まで目を通し終えたら残り30分を切っていたように思います。
 3種類の文章が書かれていて、墨字原本は4頁程度でしたから、点字では7,8枚ほどのように思います。
 一つ目の文章は伊勢湾台風の災害に関する記事で「三重□県下」という言葉が出ていたのが思い出されます。「県下」という言葉はあるけれど、これは切るべきではないだろうと指摘しました。
 二つ目は、消費エネルギーの話で、カロリー(kcal)やジュール(J)の単位や数字がたくさん出てきました。それが数式ではなく日本語と組み合わさって等しいことを示すような記号も出ていました。大文字で書くべきところに大文字符が抜けているのにも気づきました。なぜか「トーモロコシ」と書くべきところを「トオモロコシ」と書いてあって、こんな単純なミスも書いてくれるんだとほっとした記憶があります。
 三つ目は、マーガリンの由来と特徴の話で、外国で最初に作られた製法が書いてあったような。アルファベットや英単語がたくさん出てきました。外国語引用符の使い方やその後に続く助詞やカッコの扱いが問題となっていました。
 一つ一つの間違いはほとんど忘れてしまいましたが、全体を通して、単純な文字や英語のスペルの間違いはありませんでした。語の書き表し方、分かち書き、複合語の切れ続きの指摘箇所もいくつかあったと思いますが、一番気を遣ったところは、記号・符号の使い方でした。数字・単位・略称・英単語が出てきてその符号の使い方、それらの説明にカッコ書きが重なっていたり、棒線・波線が使われていたりして、単純な文章ではありませんでした。波線の後で行移しとなっているところもあって、これは行末が空いてもひと続きで書かなければいけないと指摘しました。
 私は、校内で点字を校正する機会があるので、間違いさがしはかなり得意な方ですが、文章自体のレベルが違い、手応えがかなりありました。校内で扱う文章は単純でパターン化していて、私たちは書き方の形式にばかり気を取られていますが、もっと高レベルのものも点訳できなければと思います。
 校正の仕方は、点字用紙に頁・行を示し、その後に間違えているブロックを書き、矢印を書いて正しいものを書きます。いざ解答を書こうとすると、チェックを入れた箇所の行数を数えたりする作業もあって、思いの外時間がかかりました。 全てを終えたのが5分前。見直しをと思って見た一つ目の答えに記載ミスがあってあわてて書き直したら、ちょうど時間切れとなってしまいました。つまり、見直しは点字化も校正も全くできなかったことになります。

    振り返ってみると
 5回に渡って事細かに報告させていただいた「点字技能検定試験」、実のところこの「かわら版」に書きたくて1万円を払って受験したとも言えます。初めて実施されるこの試験、いずれは日本の点字技能の判定基準ともなるべきもので、スタートに当たって、ぜひその様子を知りたいと思いました。そのためには受験してみるしかないのです。すべって大恥をかくこと覚悟の上です。そうなれば、井の中の蛙だったことを知り、ますます自分を磨いていかなくてはいけないこともわかります。
 職員の異動が激しい学校関係者の中では、年数が長ければそれだけ技能も上回っているのは当然ですが、点訳ボランティアや点字図書館関係の人たちに比べたら実力の差を感じます。最近、外の世界に出る機会があるのですが、学校の先生はそれなりの専門性と実力があって指導しているんでしょう、と捉えられているのを感じます。現実とのギャップに大変苦しむ場面です。点字に関して言えば、そういう方々にとても太刀打ちできませんが、引けを取らない程度に実力を上げ、その上で指導に関するノウハウを蓄積していかなくてはいけないのではないかと痛感します。
 合否の結果はまだ出ていません。結果がどうであれ、自分でこの試験に悔しさが残る以上、さらなる勉強をしたいと思いました。こう思える機会を与えてもらったことに感謝したいです。
 この特集の間、本人の希望でずっと隠していたのですが、実は青木香織先生もこの試験にチャレンジしました。一つの学校から二人で受験できたというのはとても心強いものでした。時間がなかった受験勉強、雪の日の受験、試験内容の話など常に一緒にあれこれと相談し励まし合い、慰め合い支え合ってきました(ちょっと大げさかな)。青木先生の実力もかなりのもので、私も何かと頼りにしていて、彼女の方が受かるのではないかと密かに期待しているくらいです。
 この特集では「大変だった、難しかった」と書き続け、恐怖感をあおったかもしれませんが、青木さんのように挑戦する人が出てきてほしいです。こういう専門性を目指す人がもっともっと増えてほしいと思います。

 最後にみなさんに願うこと。どうか点字技術を磨いてください。
 この試験の紹介でおわかりのことと思いますが、点字を扱う者には高いレベルが要求されているのです。点訳するのにローマ字入力をするのは盲学校の職員として全くの邪道です。点訳ソフトを使うのが主流ですが、カナ画面に頼ってしか読めないのでは困ります。自動点訳ソフトが楽だからとそればかりに頼ってはいけません。つまり、自分の6つの指が自由に動き、一覧表を見ないで入力できるようになってください。分かち書きや記号の使い方にもっと注意を払ってください。1、2枚ぐらいならパーキンスをどんどん使いましょう。
 そして、どうか自分の眼で直に点字が読めるようになってください。今回の試験ではそのことの必要性が叫ばれていたように思います。コンピュータソフトの向上により、打ち出された点字が読めなくても、画面上で点訳処理ができてしまう時代になりました。10年前までは、全てがパーキンスでの点訳。何部も何部も打ちました。コンピュータの出現でその大変さからは解放されました。それでも画面は全て点字表示でした。もちろん六点入力です。打つ力と回数が減っただけで点字技術はやはり必要でした。それがこの数年で様変わりをしました。確かに便利になりました。楽になりました。でも、便利さを利用しても技術は退化させないでください。自分の手で打ち、眼で確認することを忘れないでください。
 全盲の人にとって点字はかけがえのない文字なのですから、いい加減に扱わないでください。どうか心からお願いします。