日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
2001年2月17日発行 NO.32

  点字技能検定試験」特集 Part2

  点字技能検定試験のためにどんな勉強をしたか?

 夏休み明けの9月上旬に募集要項が各校に配布され、募集期間は9月15日〜10月31日。どんなものか、このかわら版のネタになるかもしれないと気軽な気持ちで応募してみました。でも、受験料に1万円もかかりました。受験用の写真も用意し、久しぶりに受験生になった気分でした。
 でも、どんな勉強をしてよいのやら・・・?募集要項には学科試験と実技試験が実施されると書かれていました。

  学科試験って何が出題されるの?
 募集要項には次のように書かれています。
 学科試験は、視覚障害者福祉に関するもの、及び点字に関するもののほか、広く障害者福祉に関する知識及び理解度を問い、合わせて国語に関する知識を問うため、次の内容について出題する。
 ア.障害者福祉一般
 イ.視覚障害に関する基礎知識
 ウ.国語の基礎知識
 エ.点字の基礎知識

 そう言われても、一体何をどうして勉強すればいいのか、見当も付きません。月日が経っていきました。12月に入ってあるパンフレットを思い出しました。
「視覚障害者支援総合センターを支える会」が10月頃に発行した『点字技能ハンドブック(視覚障害に関わる基礎的知識)』なるものです。何か少しは本を読んでおいた方がいいだろうと取り寄せてみることにしました。3000円もしました。12月下旬手元に届いて驚いてしまいました。黄色の分厚い本はなんと、点字技能試験のためのまさに虎の巻のために作られたような本で、弱視用に文字も大きく、点字版も出ています。この試験を目指す全国の人が購入して必死で勉強しているのだと思いました。さらにその本を開いて冷や汗が出ました。
 「視覚障害に関わる基礎知識」として、身体障害の概念と身体障害者の状況、視覚障害とハンディキャップ、視覚障害者の福祉、視覚障害児者の教育、視覚障害者の職業、点字図書館事業の変遷と現状、点字出版事業の変遷と現状、の7章からなる歴史あり、制度あり、現在のデータありと、まるで歴史・政治の教科書を読むような内容と量だったのです。あせったのなんのって、年号・人名・団体名がやたらと出てきて、読んでも読んでもとても覚えられるものではありませんでした。特に昔から社会科は大の苦手教科、読んだ片っ端から忘れていくのです。しかも、章の最後にご丁寧に例題問題なんか出ているではありませんか。
4者択一問題とはいえ、どの文章を読んでも正解に思えて重箱の隅をつっつくようなところのチェックが要求されているのです。しかも時間がありません。学校から帰り、夜布団の中で読んでいるとすぐに寝てしまいます。しかも老眼が進み出した近頃では根気も続きません。一ヶ月足らずでこれを覚え込むなんて至難の業で、本当に困ってしまいました。10月発行時からこの本を手にしていればと、後悔しました。でも、嘆いてみても1万円が返ってくるわけではないしと、仕方なしに書いて覚える昔の受験勉強時代を思い出してやり出しました。でも、その単純作業に正月があけるとなんだか的はずれな勉強をしているのではないかと不安にさえなりました。

 こうして、歴史・制度関係のことばかりに目が行っていて、後半の「点字技能に関わる基礎的知識」の章をおろそかにしていました。直前の1週間前に開いてみると、これまたなんだかやけに難しい、私たち教員はあまり使わないような点字化の問題ばかり載っています。ボランティアさんはこの章は強いんだろうなあと思いました。これも「日本点字表記法」をもう一度隅から隅まで目を通さなくてはいけないハメになりました。
 そして、最後に残った国文法の章は完全にあきらめました。私は国語科の教員ではないからと開き直ることにしました。

 と、延々と個人的な勉強の話ばかりしてしまいましたが、これは時間がなかったことに原因していることばかりで、見方を変えるとこんな感想も持ちました。

 今まで、福祉関係のことにはほとんど目が行っていなかった自分に気づかされました。内容を覚え込むことはともかく、読み進むうちに明治からの日本の福祉行政の流れ、それらを開拓してこられた先人の苦労と偉大な業績、そして現在のそれなりに恵まれた環境の下に身を置いていることへのありがたさを痛感しました。また、盲学校関係のことを少しは知っているつもりでいましたが、過去のこと、全国のこと、そして、教育関係以外のことは何も知らなかったことも痛感しました。そういう意味では、大変良い勉強の機会を与えてもらったと思います。
 この本は点字技能試験のためのマニュアルかもしれませんが、すべてを網羅した概要が書かれているという点では、一度読んでみる価値はあります。また、著者の谷合侑(たにあい すすむ)氏はこの他に視覚障害福祉関係の本を多数書いておられ、本校の図書館にも「盲人福祉事業の歴史」があります。一度目を通されてはいかがでしょうか。
 また、盲学校の教員として、視覚障害者に関わる一員として、点字技能の資格を取るためにはこういう視野を持つことも要求されているのだと、試験の意図もうなずけるものでした。
 さらに、もう一つすごいことを付け加えておきましょう。
 この学科試験は2時間のものですが、問題はすべて点字で出題されます。4者択一だから文章ばかりで、すごい量の点字を目で読んでいかなくてはなりません。スピードが要求され、晴眼者には不利だとも思えます。しかし、この出題方法の意図もまたうなずけるものでした。
 今はコンピュータ点訳が主流を占め、ローマ字入力する人も増え、カナ変換画面で点字を確認する人が圧倒的に多い中で、点字を十分に読みこなせない点訳者が増えていると聞きます。本校の実状もその通りです。ですから、点字用紙に打った点字そのものを読むことを億劫がり、パーキンスが避けられる傾向になっています。これは、盲学校の教員にとっては由々しき大問題で、生徒が書いたものをその場ですぐに確認したり指導できないことにもつながります。どうか点字そのものを読むことを心がけてください。