日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1998年7月1日発行 NO.3

 日本の点字がどのような経緯で移り変わってきたのかを,しつこく特集しています。前置きのような話はそろそろ終わりにして,本題に入っていかなければいけないと思うのですが,調べれば調べるほど,今私たちが直面している問題は,こういう組織の動きの問題を抜きにしては語れないのではないかという気がだんだんしてきました。単なる数学の記号をこう変えればいいという問題だけではないような気がします。ですからもう少しおつきあいください。
 今回は「日本点字委員会(日点委)」がどのような仕事をしてきたのかをもう少しみてみましょう。

 7.日点委の仕事
 (1)「日本点字表記法」の発行と改訂への取り組み
 昭和41年に発足した日点委の第一の仕事は,そのときまだ各点字出版所や点字図書館などで表記上微妙な差を残していた十数項目の解決でした。そのための協議を何度か持ち,関係者間で合意に達したので,それらをまとめて昭和46年に日本点字表記法 (現代語篇)として発行されました。(下線部の「関係者間で合意に達した」という表現はとても大事なことだと思います。以下同様)

 その後も表記の体系化をめざして抜本的検討を重ね,広く関係者からも意見を求めて改訂作業を続け,その結果まとめられたのが昭和55年発行の改訂日本点字表記法』  {黄表紙}です。(これを知っている人は少なくなっていると思いますが,1990年改訂以前の10年間,これを大きな拠り所として点字出版物や点訳作業が整備されてきたのです。本校でももちろんこれを基本において,「点訳便利帳」「改訂点訳便利帳」が作られ,広く活用されていました。)
 この「改訂日本点字表記法」には,次のような改定の特徴がありました。
  @特殊音の前置点を整理したこと
  Aア列・エ列・オ列の長音のかなづかいを現代かなづかいに合わせることを本則としたこと
  Bアンダーラインなどに相当する強調や指示を表す方法として,カギ類や指示符類を整備したこと

 ところが一般の日本語表記において,昭和57年以降,国語審議会では現代かなづかいの見直しに着手し,昭和61年に「改訂現代仮名遣い」が公表されたり,外来語表記についての検討及び中間発表が行われるなど,にわかに様々な指針が出されるようになりました。
 それらの動きは当然点字表記にも反映せざるを得なくて,墨字の表記符号の多様化に対応する方法も求められてきました。

 そこで日点委はこれらも含めて,分かち書きや自立語内部の切れ続きの原則を一層明確にするための検討を加え,各方面の意見も聞きつつこれらをまとめ,日本点字制定100周年の記念事業の一環として日本点字表記法 1990年版』{青表紙}を編集発行しました。
 これが現在私たちが使っている点字表記の拠り所となっているもので,この発行を機に本校でも点訳便利帳の全面改定を迫られ,「新点訳便利帳」が発行されました。

 (2)日点委での検討事項はどのように流れてくるのか?
 日点委ではこのような十年単位での点字表記法の発行だけでなく,定期的な総会や会合がもたれ,その都度その時期に必要な検討を精力的に行っています。それらは年に1回発行される日点委広報誌『日本の点字』というのに掲載されて,全国の各関係機関に配布されています。これには今何が問題とされ,何を検討しているのか,そして,日本の点字に関する最新の情報が詳しく掲載されています。また,1986年より「日点委通信」という4頁ほどのものも刊行されたようです。
 しかし,残念なことに財政的な問題から無料配布されていたものが有料となり,しかも本校の図書館には,第9号(1981年)〜第15号(1989年)<第10号はない>しか揃っておらず,ここ約10年間の日点委の動きがわかりません。この広報誌は非常に重要なもので,何とか工面して揃えておくべきだと思います。
 この広報誌を読んでみると,その時々に必要な情報が流れているのがわかります。たとえば,一般社会でコンピュータ化が進む中で,点字による対応も迫られ,コンピュータ言語の表記法が作成され,第9号と第13号に掲載されました。また,1990年に日本点字表記法が出版される前年度の第15号にはその概要と提案及び目次案が掲載され,広く意見を求めています。

 今にして思えば,本校でのこのような点字情報の収集の意識はかなり低かったように思われます。資料が散逸していることや大きなものが発行されて初めて驚き,その対応にあわてふためいたことなどが思い返されます。もちろん,「日本の点字」は点字版でも発行されており,点字を使用しておられる理療科の職員はそれなりの意識で情報収集をされていたと思われますが,普通科以下の職員はお恥ずかしながらその意識は薄かったように思います。
 ですから,「日本点字表記法 1990年版」が発行された以後,どのような流れがあったのかを早急に調べる必要があります。そのことが今話題になっている問題解決に一歩近づくことにもなるように思います。

 (3)数学や理科記号はどこで検討を?
 日点委では大元の日本語の点字表記に向けての取り組みだけでなく,各種の専門委員会を設けて分野毎の研究を進めていて,そこに点字数学記号専門委員会,点字理科記号専門委員会などがあります。

 さて,ここからがいよいよ本題らしきことに入ることになるのですが,今回は残念ながら紙面が足りませんので,次回にまわすことにします。
 (前置きが長くて,本当にごめんなさい。)