日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
2000年7月19日発行 NO.29

 いよいよ夏休みに突入です。1学期の慌ただしさにひと休みし、来る長い2学期への鋭気を養うべく、思い思いの立場で研修に励み、有意義な夏休みをお過ごしください。
 「かわら版」も1学期の発行は少ないものとなってしまいましたので、1学期最終日で読んでいただけるか不安ながらも単発で、自動点訳ソフト「Extra(エキストラ)」の解説をしたいと思います。

  自動点訳ソフト「Extra(エキストラ)」とは?
 このソフトは、出た直後からいろいろな意味で話題になりました。
 東大卒業の全盲の方が作られたとかで、点字をよく知らない人でも墨字文書をこのソフトにかければ点字に自動的に変換してくれるという優れものです。点訳に不慣れな人はこのソフトのありがたみをひしひしと味わったことでしょう。
 私はつい最近まで使ったことがありませんでした。それは、点字の最も難しい分かち書きでは間違いが多いだろうし、漢字熟語もどうせ正確には読んでくれないだろうから、後で直すのが大変だろう。直に打った方が早いのでは・・・と長い間思っていたからです。
 でも、周辺ではよく使われているらしいし、「Extra」は優秀だとの噂も耳に入ってきていました。しかし、それを安易に使って「Extra」にかければそれなりに正確な点字ができると思いこんで、そのまま修正を加えずに提出する人もかなりいるらしい。それじゃあ困る!どれどれ、どんな特徴があるのか調べてみようという気になり、使ってみました。

 A.「Extra」のすごいところ
 (1) 点字の最大の難点である「分かち書き」については、本当に感心させられました。何度かバージョンアップされてきたに違いないと思うのですが、現在の表記法のポイントをとらえて、分かち書きに関しては申し分のない精度だと思いました。といっても100%ではありませんので、その辺のところは十分にご注意ください。少なくとも点字熟達者と言われない人たちとは互角でしょう。初心者よりははるかに上です。いみじくも誰かが言っていました。「エキストラに分かち書きを教えられている」と。
 (2) 日本語には漢字熟語の音訓読みをどう判断したらよいのかという、もう一つの難しい問題があります。それもこの「Extra」は膨大な辞書を内部に持っているのでしょう、よくまあこんなに上手に読んでくれるものだと感心させられるほど熟語の読みをこなしています。レベルとしては中学生に匹敵するのではと思うほどです。だけど所々に迷い苦しんだ跡が見えるのには笑ってしまいます。
それは複雑な判断力を持たない機械ゆえのことだと、人間としての優越感に浸りながら直してあげるしかないようです。

 B.「Extra」の弱点
(1) 見出しとしてのマスあけに大きな問題あり!
 墨字文書の特徴として、大きなタイトルほど左に出て、小項目になるに従ってインデックスを作り、右にマスを落としていく傾向があります。その墨字文書をそのままエキストラにかけると右に行くものほど大項目としてとらえてしまい、とんでもないことになります。
 「Extra」は墨字文書の行頭のマスあけの文字数によって見出しを判断しています。1マスあけて書けば2マスあけの点字に、2マスあけならば4マスあけの点字に・・・というふうに自動的に判断してくれますが、エライのは墨字で4マス以上あけてあっても点字では8マスが最大の見出しとなって、それ以上のマスあけとならないことです。また、見出しだと判断したら、2行に渡るものは次の行ではさらに2マス下げて書いてくれるのもすごいことです。
(2) 記号・符号は信用しないこと!
 単純な( )や「 」は判断してくれます。しかし、墨字文書には個人の趣味によってその他の様々な記号を使います。例えば、☆※*・/<>:(書き出したらキリがありませんが)それらのほとんどが、まず違っていると言っても過言ではないでしょう。その他、数字やアルファベットを含む語も要注意です。日付や時刻の略記も正確には点訳してくれません。
 墨字文書でどんな記号が使ってあっても、その使われ方の意味を考えて、適した点字記号を選ばなくてはいけません。「Extra」では形で対応して意味では対応してくれないからです。特に数学記号(< >、/)や情報処理記号(*)との取り違えはゆゆしき問題です。また、記号そのものはあっていても、点字としての使い方がまちがっているもの(星印、コロンなど)も多くあります。十分に注意してください。

 こうしてみてみると、「Extra」も使いようによっては便利なものになりますが、逆に大恥をかくことにもなりますから、もっともっと研究して使いこなしてほしいものです。でも、こうして紹介することによって「Extra」の普及が加速度的になると、指を動かしての点字直接入力の技術が衰えないかと心配になるのですが、その辺はどうか文書の種類と量を選んでご活用ください。