日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1999年12月15日発行 NO.25

  <前号の続きです。新点訳便利帳の第2章、[その2 複合語]参照>
  
 4.複合名詞の切れ続き (1)の[許容1][許容2]の例は、「日本点字表記法」では、【注意】として「続けてよい」と規定していますが、最新表記辞典ではほとんど区切る方向になっています。だから、気にする必要はほとんどなくなったのです。
 [許容1]【3拍以上の意味のまとまりが二つ以上あっても、分かち難い複合名詞は続けてよい。】
 これは複合名詞の成分が動詞から転成したものの扱い方ですが、「表記辞典」によると、「動詞が転成した成分も含め、3拍以上の自立可能な意味の成分が二つ以上あればその境目で区切る」となっていて、ほとんど区切ってあります。
 例にある「扱い始め」「人間くささ」「使いやすさ」は一語になりきっている感覚が強いせいでしょうか、そのまま続けていますが、その他の例は全部区切ります。
 (仕立て□下ろし  子ども□扱い  有難□迷惑  うれし□涙)
 「バレー□ボール」「フット□ボール」「ホット□ドッグ」などの外来語も、本来の意味はあまり気にせず、前に書いた拍の基準でガンガン切っています。
ご安心を!
 [許容2]【語頭に、方向などを表す2拍の語と対をなしている3拍の語が付く場合は続けてよい。】
 となっていますが、これらもすべて区切っています。つまり、「北〜・西〜・右〜・前〜」は2拍だから続けますが、それと対をなすような「南・東・左・後ろ」は3拍だから区切るように変わっています。

(2)【内部の意味のまとまりが2拍以下であっても、自立性が強く、意味の理解を助ける場合は区切る。】
 この項目は、(1)の例と相対するもので、なかなかくせ者です。何を持って自立性が強く、意味の理解を助けると判断するのか、容易ではありません。判断材料は発音してみて、「半ポーズの間があるか、アクセントが2拍の所にあるか」
でよいと思うのです。ここは強調したいんだ!ここは区切った方がわかり易い!と主張する言葉感覚があれば十分です。

(3)【内部に二つ以上の意味のまとまりがないものや、区切ると意味の理解を損なうおそれのある複合名詞は続ける。】
 この例の中で、「博物館員」「生徒会長」は前に書いたとおりで、続けても区切ってもどちらでもいいと思います。その他の例は次のような理由があるので区切れないことが納得できるでしょう。
 ・一つの名詞の前後に補助的なものがくっついているパターン
  (小中学校、作曲者名、女子大生、被保険者、不連続線、盲学校長)
 ・対等な関係で並びつつ、あるものにかかっていて、区切りがないパターン
  (生年月日、市町村長)
 ・区切ると、明らかに意味が違ってくるパターン
  (海水浴場・・・海水の浴場ではない、幼稚園児・・・幼稚な園児ではない)

(4)【漢字1字ずつが、対等な関係で並んでいる複合名詞などは、意味の理解を容易にするために適宜区切るか、すべてを続ける。】
 ここの例では、次のようなパターンに分かれています。
 ・長い言葉の羅列で、発音上細かく切れ目があるものは、全部区切っている。
  (仁□義□礼□智□信、生□老□病□死、甲□乙□丙□丁□戊)
 ・一語的によく使われ、発音上切れ目のないものは全部続けている。
  (衣食住、天地人、年月日、都道府県、春夏秋冬、士農工商)
 ・比較的拍数が長くて、前半と後半に自立可能な言葉のまとまりがあるものは、2字ずつ区切る。この場合、後半の漢字2字が自立可能な成分であるかが問われますが、国語辞典の見出しとして載っている言葉であるというのが根拠にできます。
  (東西□南北、上下□左右、加減□乗除、花鳥□風月)
  (起承□転結、冠婚□葬祭、重厚□長大)

5.【複合動詞は続ける。】(歩き続ける、歌い始める、飛び込む、夢見る)

6.【複合形容詞は続ける。】
(面白おかしい、重苦しい、読みやすい、書き良い)
 この二つの項目は、同レベルの意味のある動詞や形容詞が二つくっついたもので、すべて続けます。
 だけど、時々迷うのは「補助動詞(区切る)」と「複合動詞(続ける)」の区別です。補助動詞は後半の動詞が本来の意味を持っていません。複合動詞は後半の動詞もはっきりとその意味を表しています。しっかり区別しておきましょう。

7.〜9.ことわざ・慣用句・特別な言い回しの言葉 などは、言葉の持つ意味、 リズム、まとまりなどをよく考えて続けたり区切ったりしましょう

10.【繰り返し言葉は、2拍以下であれば続け、3拍以上であれば区切る。】
 ここは、拍の考え方に沿っています。確認しておいてください。

11.【年月日や名数、名詞などの後ろに続く2拍以下の語は、意味を明確にする必要がある場合には区切る。】
 ここも特に問題がないと思います。強調したい!アクセントがある!と思うところは、2拍以下であっても文句なしに切りましょう。

 以上、長くて難しい「2拍・3拍問題」に取り組んでみました。
少しは感覚がつかめていただけましたでしょうか。
 とにかく大事なことは、「点字には漢字がない」ということをしっかり意識しなくてはいけません。漢字を目で見ていれば、長い複合語でもその意味は取りやすいのですが、点字はすべてひらがなの羅列だと思えば、意味をとるための苦労もわかると思うのです。続けた方がよいのか、どこで区切ってあげれば意味が取りやすいのか、区切ったことで違う意味にはならないだろうか、その辺りを思いやりの心で点訳すれば、きっと上手な点訳になると思います。

 さて、16号(6月4日発行)から続いたこの一連のシリーズ、実は「新転任者オリエンテーション」の解説から端を発したものです。これだけの内容をたった3回のオリエンテーションで説明してみても、さっぱりわかりませんよね。
 だから、新転任の方だけでなく、他の方にももう一度「かわら版」でじっくりと読んでみてもらいたかったのですが、こんなに膨大なものになるとは思ってもいませんでした。これを書くにあたり多くの手引き書を見直し、今まで曖昧だったところもすっきりできて、とても良い機会を与えられたと思っています。
 これで、1900年代最後の年のいい締めくくりができて、2000年に向けて心新たにスタートが切れそうです。みなさんも良いお年をお迎えください。