日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1999年12月15日発行 NO.24

 「師走」も後半、年の瀬も押し詰まったあわただしい時期に、またこんな難しいことを書いて全く恐縮です。でも、これに片を付けないと年を越せないという心中もどうかお察しください。

 さて、前回は、「2拍・3拍問題」の導入だけで終わってしまいました。
そこにも書きましたように、大元が改訂されて10年の歳月が流れています。
その間に大元の考え方を逸脱しない範囲内で、細かい許容の部分で変化があり、
便利帳に載っている例でも現在の使われ方とは違ってきているものもあります。(もちろん、複合語内部の切れ続きの部分だけですが。)
 今回は、実際に便利帳に沿って復習しながら、何が変化してきているのかを、「最新点字表記辞典 増補改訂版(茶表紙)」と照らし合わせて見ていきたいと思います。ただし、「表記辞典」の編集方針に対してもいろいろ異議はあるようですが、それほど精通していない私たちとしては何かを拠り所とするしか仕方がありません。ご了承ください。

 では、実際にもう一度復習しましょう。
 <新点訳便利帳の第2章、[その2 複合語]に沿って解説します>

1.【一語になりきっている短い複合語や短い略語は続ける。】
 これは特に問題はないですね。
2.【接頭語・接尾語・造語要素と結びついている複合語は続ける。】
  【例外:発音上の切れ目があり、意味が独立している場合は区切る。】
 後ろに続く副次的な要素は続けると覚えるとよいでしょう。接頭語などでは、同じ言葉でも続けたり区切ったりとややこしいですね。まず、自分で発音してみてください。半ポーズくらいの間があれば(発音上の切れ目)、アクセントがそこにあって強調していると思えれば、区切っていいのです。自信を持ちましょう。
3.【連濁を生じた複合語は続ける。】
 これはどんなに長くなっても続けます。覚え方は単純です。元の言葉が濁っていれば続ける、それだけです。

4.複合名詞の切れ続き
(1)【内部に3拍以上の意味のまとまりが二つ以上あれば、その境目で区切り、   2拍以下の意味のまとまりは、そのどちらかに続けることを原則とする。】
 これは、方針ですから仕方がない。このまま受け入れましょう。同じ単語が使われていても、それに付く単語が2拍と3拍では違うのです。
  桜□並木⇔杉並木  畑□仕事⇔野良仕事  正月□休み⇔夏休み
  高等□教育⇔盲教育 
 でも、同じ2拍の言葉でも続けたり区切ったりと、頭を悩ますものがたくさんあります。「仮名文字」「頭□文字」「女□文字」はまだ謎解きができていません。(「仮名」は漢語2字、「頭」「女」は和語3拍に関係しているのか・・・?)
 特に外来語に関しては不可解なものが多く、どういう基準になっているのか、ずーっと悩んでいましたが、やっと答えを見つけました。
 「最新表記辞典」に次のような基準が書いてありました。
@外来語どうしが複合した場合は、2+2,2+3などの計5拍以内のものは続け、3+3,2+4,2+5などの6,7拍以上のものは区切る。ただし、後半に続く「カー」「デー」「マン」などの自立性の弱い2拍の語は続けて書く。
  スクール□バス(4+2)⇔シャトルバス(3+2) 以下同様の例で
  アップル□パイ⇔ミートパイ  アンダー□シャツ⇔アロハシャツ
  プラトニック□ラブ⇔オフィスラブ  カフェ□カプチーノ⇔カフェテラス
  ボンレス□ハム⇔ロースハム  ドア□カーテン⇔ドアボーイ
A和語と外来語が複合した場合は、それぞれが3拍以上であれば区切り、どちらかが2拍以下であれば続ける(ただし、共に自立可能な意味の成分であれば区切る)。ともに2拍以下であれば続ける。
  光□ファイバー  革□バンド  ビル□荒らし  テニス肘  丸ビル
B漢語と外来語が複合した場合は、外来語の前や後に1字漢字が付いたものは続ける。漢字2字以上の漢語と外来語が付いたものは区切る。
  イス席(外来語+漢字1字)  ブランド物
  補助□イス(漢字2字+外来語) 以下同様の例で
  観光□バス  タブ□機能  自動□ドア(⇔ドアボーイ)
  プロ□野球(⇔プロテスト)  プチ□野菜(⇔プチトマト)

 また、次のような例も覚えておいてください。
  防火□用水  経済□学者  会計□課長  結婚□式場  建築□業界  どれも「防火用の用水」「経済学の学者」「会計課の課長」などのように、二つの成分の境目の文字が重なって、その一つが省略されて複合語ができたような言葉ばかりです。こうなると、区切ればよいのです。
 でも、もう少し慎重に言葉の持つ意味を考えてみると、いずれも区切ることによって、「防火の用水」「経済の学者」「会計の課長」と言っても意味が通じます。だから、切ってもいいのだという理由付けにもなります。
 では、次のような例はどうでしょうか?
 「図書館長・・・図書の館長」「博物館長・・・博物の館長」「生徒会長・・・生徒の会長」「展覧会場・・・展覧の会場」と言っていいのでしょうか?いいと思う人は区切ればいいと思うし、いやそんな切り方では変な意味になってしまうと思う人は続ければいいのだと思います。
(3)の例にある「博物館員」「生徒会長」のように分かち難いとされている複合語はまさにその境界線にある言葉なのです。ちなみに、「点字表記辞典」では「生徒□会長」「運命□論者」「音楽□史家」「展覧□会場」のように、間の言葉が重なっている例ではほとんど区切られています。
 だけど、同じパターンで(3)の例にある「海水浴場」は「海水の浴場」とはならないし、「幼稚園児」は「幼稚な園児」となったらおかしいですね。もっとひどい例は「動物園長」は「動物の園長」ではないし、「幼稚園長」は「幼稚な園長」になったら大変です。間の言葉が重なっているとはいえ、区切ってみて意味がおかしくならないかの吟味が必要になります。      (次号に続く)