日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1999年9月24日発行 NO.21

 例年にない猛暑だった夏休みを過ぎ、9月からようやく秋の到来かと思いきや、学校が始まってもうだるような残暑が続き、さすがにバテ気味ですね。しかし、「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、秋分の日を境にようやく秋風が心地よく感じられるようになってきました。正門の前の萩の花も咲き出しましたね。今日は中秋の名月ですが、台風の影響で楽しめるでしょうか。すすきと団子で夏の疲れを癒しながら、長い2学期を乗り切りましょう。

 さて、夏休み前に出した「かわら版19,20号」を深く読んで下さった方、分かち書きの中でどうして複合動詞の「する」だけがこんなにも複雑でわかりにくいのかと腹立たしい気持ちになったことでしょう。そうです。そう思うのは、あなただけではありません。日本全国の点字関係者が同じ思いでいたのです。
 この問題は、1990年に改訂された当初から継続した検討課題として残っていました。そして、この夏休みに、次回の表記法改訂「2001年版」の編集に取り組んでいる日本点字委員会から、以下のような新提案がありました。
 簡単に解釈すれば、次のように要約されると思います。
『とにかく「する」は切ることにしましょう!ただし、途中に「を」を入れられなかったり、語幹が促音化・長音化・発音化していたり、連濁していて一体化しているものは続けましょう。』
 この新提案は、現行のような国文法のややこしい定義を持ち出して解説しなければ決定できないようなものではなく、私たちのように文法に精通していないものでも十分にわかりやすく、当然生徒への指導でもとても解説しやすい提案のように思います。
 この新提案はまだ決定されたわけではなく、点字関係者にこの案を示して広く意見を求め、次年度の総会に原案が提案される予定です。現行のルールと新提案のどちらが良いかとその理由も明記して、10月29日(金)までに点字委員会に意見を送ることになっています。校内でも大いに議論し、意見を送りましょう。
 そのために、現行の「かわら版20号」と新提案の今号をよく照らし合わせて点字研究部までご意見をください。

     複合動詞「する」に関する新提案

 5.一般に複合動詞とされているもののうち、「する」の部分が接尾語的であり、活用が変化したり連濁の「ずる」となるものは1語として続ける。その他の場合は、すべて「する」の前を区切って書き表す。

  〔続ける例〕 アイシナイ(愛しない)<アイサナイ(愛さない)>
    リャクサセル(略させる)  リャクスル(略する)  タッスル(達する)
    ハッシナイ(発しない)  ロンジナイ(論じない)  シンズル(信ずる)
    オージラレナイ(応じられない)  メイズル(命ずる)
    カロンズル(軽んずる)  ウトンズル(疎んずる)  
    サキンジテ(先んじて)  ソランジロ(諳んじろ)
  【備考】
   ・「愛する」では「アイヲ□スル」と分けられないし、サ行変格活用と五段活用の二通りの活用形がある
   ・「発する」では語幹の名詞部分が促音化して一体化を強めている。
   ・「応ずる」「命ずる」では語幹の名詞が長音化して連濁とともに一体化を強めている。
   ・「論ずる」「軽んずる」「先んずる」では語幹が撥音化して連濁を引き起こし一体化を強めている。

  〔区切る例〕 コイ□シタナ(恋したな)  ナミダ□シテ(涙して)
    メモ□スルナ(メモするな)   ジャンプ□シテ□ゴラン(ジャンプしてごらん) 
    ヘンカ□シマシタ(変化しました)   ベンキョー□スルヨ(勉強するよ)
    グタイカ□スル(具体化する) 
    ジガ□ジサン□シタクワ□ナイネ(自画自賛したくはないね)
    アソビノ□ジャマ□スル(遊びの邪魔する)
    アソビヲ□ジャマ□スル(遊びを邪魔する)  ジャマ□スル(邪魔する)
    シャカイ□セイカツ□スル(社会生活する)  セイカツ□スル(生活する)
    シュフ□スル(主婦する)   ハハオヤ□スル(母親する)
    ヘミングウェイ□スル(ヘミングウェイする)
    イクラ□スル(いくらする)   トオカ□スル(十日する)
    ハッキリ□スル(はっきりする)   ビックリ□スル(びっくりする)
    キラキラ□スル(きらきらする)
  【備考】
 ・名詞の多くに助詞の「を」をはさんで副詞句化できる。
 ・「遊びの邪魔する」と「遊びを邪魔する」の区別が必要ない。
 ・「社会生活する」と「生活する」の区別をする必要がない。
 ・「主婦する」や「十日する」などのような代動詞を意識する必要がなくなる。
 ・「びっくり」が名詞か副詞かの解釈が必要なくなる。
 ・現代語では名詞に「する」を付けて動詞化する傾向が増大しているが、複合名詞と同じく内部の構成要素と考えることによって長すぎて読みにくくなることを避けることができる。

 どうですか?ずいぶんすっきりしたと思いませんか?ただし、書くときのきまりとしては理解しやすくなりましたが、読み手側は切りすぎて読みにくいという意見はありませんか?点字使用の先生、是非ご意見をください。