日本点字事情
かわら版

横浜市立盲学校
点字研究部

文責 道村静江
1999年5月26日発行 NO.15

      第35回 日本点字委員会 総会報告

 5月22日(土)・23日(日)に横浜のあゆみ荘で開かれた「第35回日本点字委員会総会」に出席してきました。一般参加が可能という情報をもらい、特別もぐりで初めて参加しました。その内容たるや、とても高度で(なんて言っていちゃいけないんですが)、すごい議論が闘わされ、ひたすら聞く身となっていたわけですが、居眠りしているなんてとんでもない、「目が点、目が皿のように」という表現があたっているほど、必死で聞いていました。
 また、日頃本や論文の執筆者名でしかお目にかかれない人にも直にお会いできて、そのそうそうたる知識人の造詣の深さにただただ驚かされました。特に日本の点字を引っ張ってくださっている阿佐博氏、直居鉄氏、木塚泰弘氏、小林一弘氏などは、ご高齢(60代・70代の方々ばかり)で全盲でありながら、その頭脳の明晰さにはただただ敬服するばかりでした。
 そこで得た情報には、貴重なものも数多くあったので報告したいと思います。
 まずは、大きな動きとして、2002年指導要領改訂に伴い、点字教科書編集に合わせた点字表記改訂の動きが急激に進んでいることです。

1.「日本点字表記法2001年版」の編集・発行
 10年前に大改訂したばかりなのに、また改訂されるの?と思われるかもしれませんが、それなりの理由があるようです。
 1980年に「改訂日本点字表記法」が発行されています。その時は、複合語などが一続きに書き表される方針でした。でも、その後あまりにも長すぎて読みにくいという意見が続出し、1990年に「日本点字表記法1990年版」の発行となったわけです。そこでは、一転して読み易さ・意味のまとまりを考えて切る方針で編集されました。そこで登場したのが拍の考え方です。
 でも、まだ完全なものとはなっておらず(言葉は生き物で、規則にすべて当てはまるものではないので当然のことですが)、様々な議論がこの10年行われてきました。複合語の切れ続きだけでなく、記号・符号の扱い、時代の急激な流れに要求される情報などを取り入れた改訂を行わなければならなくなったのです。
 そこで、2002年の指導要領改訂に間に合うように、2001年版を出す予定で、この2年間は取り組むことになりました。でも、流れとしては1990年版を踏襲して小改訂となるはずです。ご心配なく。
 本校での問題は、1990年版さえも十分浸透していないのに、さらに2001年版が出たら対応していけるのかという危惧ですが、それはこの2年間で必死に1990年版を学習するしかありません。そして、改訂になったときに何が変わったのかを知れば、よりはっきりするでしょう。

2.「点字数学記号・暫定改訂版」「点字理科記号・暫定改訂版」の発行
 去年の総会において承認されているもので、様々な用例を補充して現在、編集の最終段階に入っています。今年度末には発行される予定です。数学や理科関係の先生方、教科書に出てくる前によく研修しておきましょう。

3.「試験問題の点字表記」が発行されました。
 すでに、1部800円で販売されています。まだ手元にないので早急に取り寄せたいと思いますが、これはきっと試験問題作成の時に大いに役立つと思います。これも大学入試やセンター試験の点字入試や国家試験が一般化してきた時代の流れに沿って出てきたもので、もう、本校独自でとか自己流で済ませているわけにはいかなくなっているのです。本校の定期試験などにも大いに採用して、本式な試験の経験を生徒にも積ませなければいけません。 是非とも購入して、早速活用していきましょう。

4.古文・漢文の点字表記が2001年版から登場します。
 長い間懸案だった項目です。その詳細は「日本の点字24号」(今年3月発行)に掲載され、その報告会が今回ありました。門外漢なので聞いていて何のことかチンプンカンプンでしたが、2002年の教科書から採用されることになり、高校の教科書にはバンバン出てくるようになります。中学校にも少しは出てきます。国語科の先生是非見てください。
 専門外なのでよくは分かりませんが、漢文は墨字では漢字が並び、その間に送りがなや返り点・番号が記されていますよね。それを点字では今まで全部書き下し文で文章として表記されてきました。でも、それではあまりにも墨字とかけ離れているのではないか、漢文の持つ本来の意味が分からないのではないかということで、今回から返り点などの符号を使って漢文そのものを表そうという動きらしいです。

 ここまでが、総会で得た大きな情報で、是非みなさんにお伝えしなければと思った部分です。 その他にも、いろいろありました。途中経過的なものですが、紹介しましょう。

5.医学用語の点字表記に関する検討
 医学用語には漢字ばかりが多数くっついた複合語がたくさん出てきます。それに関して一般用語の切れ続きと同じに扱っていたのでは、どうしても意味が違ってきたり、読みとりにくいものがたくさん出てくる。それを何とか解決したいという試案が提出されました。過去の国家試験に出された医学用語の複合語を丹念に調べ上げ、その不適切さを指摘しています。専攻科の先生方、資料がありますので目を通してみられてはいかがでしょうか。

6.「中点の扱いについて」の検討
 最近、墨字文書でやたらと出てくる中点をどう点訳するかが、問題になっています。同類で読点は点字で最近使われる傾向になってきていますので、その使い方は墨字と似通ったものがあり、それほど問題になりませんが、中点は個人の感覚で多用されている傾向にあり、それをそのまま点字化すると、本来使うべき中点の扱いとは違ってくるものが多数生じます。その辺の注意を促す報告でした。
 中点に限らず、墨字文書で数多く出てくる雑多な記号をどう点訳するかは、まさに本校でも問題にしなければならないところです。記号・符号の扱いには特に注意していきましょう。

7.その他の感想
 @ボランティアさんの技術はすごい!
  総会には、学識経験者・福祉関係職員・盲教育関係者の他にボランティアさ んが多数参加されていました。点訳図書・専門書・学習参考書など私たちの要 求に応じて何でも点訳してくださるボランティアさんですから、その持ってい る技術はとても高度なもので、難しい分かち書きなどもとても吟味して点訳し てくださっています。表記法の隅から隅まで理解していなければできない作業 です。それに比べて盲学校関係者(本校だけでなく)は何といい加減な点訳と指 導をしていることかと思い知らされます。全日盲での議論レベルとのギャップ を感じました。
 A「日本の点字」を読みましょう。
  表記法だけでなく、毎年日点委から出されている「日本の点字」には最新の 議論や問題が掲載されています。日本の点字の動きがわかる本です。まもなく 職員室に墨字と点字版を揃えますので、お読みください。
  (今回は、まさにタイトル通りの内容になりました。久しぶりに・・・)